茨城県にあるみやざきホスピタルの星野惠則院長が、2つの絵(「蒼い夜明け」「希望」)の違いについて書いたコラム。
同じバレーシューズを題材にした2つの絵。病院関係者にどちらが好きか尋ねた結果について、医師の視点から考察したその内容は、非常に興味深いものとなっています。

(前略)
ロビー正面の壁に2枚の絵を並べて立てかけ、「あなたはどちらがいいと思う?」と職員誰彼となく聞いて回られたのです。
(中略)

当院の精神科医師の大半は青い背景の方を選んだということだったのです。
(中略)

何故、そういう票の分かれ方をしたのか、その理由を私なりに考えてみました。
黒い背景の絵は、バレーシューズそのもの、それ自体を描いています。じっと見ているとシューズが、まるでまっ暗な宇宙空間にひとり輝いて漂っている巨大な宇宙船のようにも見えます。その力強さと輝きから、「孤高」という言葉がぱっと頭に浮かんで来ます。
それに対して、青灰色の壁に下がったピンクのバレーシューズは孤高ではありません。デコボコや薄汚れさえ表現された壁にも、また、下の方の棚にもやわらかな影を落とし、よく見ると棚の面には幽かに靴のつま先の形が淡いピンク色に反射しているのにも気がつきます。周りとのさまざまな関係性の中で柔らかく存在しているのが、青い背景のバレーシューズです。
私は、当院の精神科医の大半が、後者の、周りとの関係性の中で柔らかく存在しているシューズの絵を選んだということを聞いて何だかすごく嬉しい気持ちになりました。医療、特に精神科医療はそうあらなくてはいけない、患者さんを周りとの関係性の中でみんなで柔らかく支える、そうでなくてはいけない、と常々思うからです。
(中略)

青い背景の絵の方をめぐることばかりをお話ししてきましたが、では黒い背景の絵には意味がないのか。
いえ、そんなことはありません。宮﨑俊一理事長も片田看護部長も即座にそちらの方を選ばれたそうです。さすがだと思いました。リーダーとして全体を引っ張っていくためには、そういう何を言われても動じない意思、闇の宇宙の中の巨大な宇宙船のようなエネルギーが必要なのだと思います。
ただ、今回、このお話をするために、改めて「希望」という題のあの絵をじっと眺めているうち、ただ真っ黒に塗ってあるかのように見えた背景に幽かに生き生きと壁のデコボコが描かれているのを発見しました。それどころか、シューズの影も微妙な黒色の差異で表現されているではありませんか。
そうなのです。あのいかにも「孤高」に見えたバレーシューズも、実は周囲との柔らかなつながりを持って存在してたのです。
(後略)

 

医療法人精光会広報誌「ようこそ」No.48(2017年1月発行)「二枚の絵〜連携と孤高〜」(院長・星野惠則氏)より引用


蒼い夜明け蒼い夜明け
10P/W41.0×H53.0cm

希望希望
15P/W50.0×H65.2cm